産後うつ

産後うつ対策にも!「産後ケア研究センター」が取組む産後ケア

世界で最も安全なお産ができる日本。しかし母親の負担感は増

現在、日本は世界で最も安全にお産ができる国と言われています(出典:日本産婦人科医会 妊産婦メンタルヘルスケアマニュアル)。2016年に厚生労働省が発表した日本の妊産婦死亡率は10万人中3.4人と世界的に見ても大変低く、今後も医療技術の向上などにより減少していく傾向です。しかし少子高齢化や核家族化が進み地域の繋がりが薄れたことなどから子育ては孤立化し、お母さんの負担感は増しています。

妊産婦の死亡原因は自殺が最多

国立成育医療研究センターによると、2015年から2016年にかけて妊産婦の死亡原因で最も多いのは自殺。亡くなった妊産婦357人のうち102人が自殺しており、中でも出産後の自殺が92人と9割を占めています。自殺の主な要因としては『産後うつ』などの気分障害が考えられています。
厚生労働省の推計によると産後1ヶ月での「産後うつ」の発症率は8.5%(2016年)で、リスクを高める要因として、育児不安やストレス、孤独感などが考えられています。症状が悪化すると自殺だけでなく育児放棄や虐待につながることも指摘されており、産後のメンタルケアの重要性が叫ばれています。

地域での取り組みが広がる産後うつ対策

2017年8月には厚生労働省が産後ケアを広めるためガイドラインを公表。自治体では助産師などの専門家が産後の母親の心や体のケア、育児相談・指導を行う「産後ケア事業」も始められています。
東京都では19区が産前産後ケア事業を進めており、世田谷区では区立産後ケアセンターによる日帰りケアや7日間の宿泊ケア、板橋区では育児支援ヘルパーの派遣や育児支援訪問などを実施しています。一方、全国的にみると産後ケアを実施する自治体は26%に留まっています。

日本初!行政と大学院 の連携による産後ケア事業「産後ケア研究センター」が始動

大学や地域が連携した産後ケア事業も始まっています。東京医療保健大学では米山万里枝教授が中心となり、産後うつによる死亡者を減らすため「地域に根差した医療」を掲げ、2018年4月に「産後ケア研究センター」を立ち上げました。同年6月には品川区と包括連携協定を締結し訪問型産後ケア事業をスタート。日本で初めて行政と大学院 が連携しての産後ケア事業に取り組んでいます。常勤助産師1名、登録助産師21名が在籍しており訪問型・日帰り型・電話型の産後ケアを行っています。

【インタビュー】米山万里枝教授に聞く「産後ケア」とは

「産後ケア研究センター」の立ち上げに尽力された米山万里枝教授に産後うつの現状や産後ケア研究センターの役割などをお聞きしました。

◆「産後うつ」の現状で、米山教授が心配していることを教えてください。
母親のうつ病は母子関係や子どもの発達にも大きな影響を及ぼします。 周産期のうつ病発生率は10~15%と高率で、医療・保健・福祉行政として対応することが重要です。これまで周産期医療に携わる医療関係者の努力により妊産婦死亡は減少しているにもかかわらず自殺が多くみられるということは驚愕の事実です。その要因となる産後うつは最も憂う問題と考えています。
◆産後ケアにおける地域医療の役割は?
少子化、晩産化、生殖医療による妊娠の増加等、産後の心身のケアが必要な女性が増加しています。社会保障審議会の専門委員会の報告によると、子ども虐待による死亡事例のうち心中以外の虐待死は年間40~60例にもなり、半数以上が0歳児、特に生後1か月未満の事例が多いのです。
その背景には母親の育児不安、養育能力の低さ、精神疾患、産後うつなど、妊娠産褥期の母親の問題が関与することから妊産婦のメンタルヘルスケアの充実は必須課題です。妊娠・出産・育児期において、養育支援を特に必要とする家庭を早期に把握し、速やかに支援を開始するために保健・医療・福祉の連携体制を整備し地域で生活レベルからの支援が必要です。
◆「産後ケア研究センター」立ち上げの経緯を教えてください
厚生労働省雇用均等・児童家庭局総務課長 母子保健課長からの通知により、各自治体では将来の児童虐待予防を目的として妊娠中から支援が必要な妊婦を抽出し、継続的な支援を行うために様々な体制作りを整えつつあります。東京医療保健大学の所在地・品川区では、妊娠・出産・育児の切れ目のない支援を行う「しながわネウボラネットワーク」の一環として、2016年6月より品川区産後ケア事業(日帰り)を開始しています。尚、この事業は、東京医療保健大学大学院医療保健学研究科助産学領域の教員および大学院在学生、修了生を中心に、産後ケア事業の従事者研修の企画・運営や事業評価等を実践し、品川区との事業連携を 実施しています。2018年4月からは、電話相談、訪問型も委託され、大学院の中に産後ケア研究センターを開設しました。現在、母子のメンタルヘルスを考慮した切れ目のない妊娠・出産・子育て支援に関する地域との連携についても検討しています。
◆「産後ケア研究センター」で米山教授が目指していることは何でしょうか?
妊産婦のメンタルヘルスを充実させ、産後うつを減少させることです。加えて将来の児童虐待予防を目的として、妊娠中から支援が必要な妊婦を早期に抽出し 、継続的な支援を行うために行政と大学・大学院および、病院などの連携や様々な体制作り、携わる助産師の教育 を目指しています。
私は、子育ては固定観念にとらわれず自分なりの産後の回復や育児ができていくことが大切だと思っています。産後ケア研究センターを通じて、妊産婦さんに“一人ではない”ことを伝えていきたいです。

東京医療保健大学における産後ケア事業

▷訪問型産後ケア
助産師が産後6ヶ月までの母子宅に訪問し、専門知識・技術に基づき乳房ケアや授乳指導を実施。産婦1人につき1時間程度1回まで利用可能。月~土 11:00~15:00。自己負担額 :7,000円のうち1,000円 (減免制度あり)

●利用者の声
産後は子ども連れでは外出ができないため、訪問型を利用し大変助かりました。何よりも悩みがすっきりして心が救われた気持ちです

▷日帰り型産後ケア

品川区内のホテルでの約4時間のケア(ルームサービス昼食付き)。産後4ヶ月未満の母子を対象に母体ケアやリフレッシュする機会を提供し助産師が相談に応じます。平日11:00~15:00。自己負担額 :約50,000円のうち4,000円 (減免制度あり)

●利用者の声
4時間助産師さんを独占し子供を安心してみていただき、様々な疑問も解け、さらにホテルからの景色も大変すばらしく、おいしいランチを頂きとてもリフレッシュできました。

▷電話相談
電話で産後の体調や授乳について相談に応じます。月~土(祝日・年末年始は除く) 9:00~16:30

監修者:米山万里枝
所属:東京医療保健大学 医療保健学部 看護学科 助産学専攻科, 大学院 医療保健学研究科
職位:教授
学位・資格:博士(医療福祉経営学)、MBA(経営学修士)、看護師・助産師 等
専門分野:母性看護学・生殖発達看護学 (女性学)・臨床助産学 助産教育学・臨床教育方法 等

参考サイト
東京医療保健大学広報事務局 報道資料
http://www.thcu.ac.jp/facilities/postnatal/ http://www.thcu.ac.jp/facilities/postnatal/about.html


2018/11/24

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