つわり

2015/11/19

ケトン体が出たら要注意!妊娠中の尿検査でわかる「妊娠悪阻」とは

この記事の監修/執筆

産婦人科医/女医+(じょいぷらす)風本 真希

ケトン体が出たら要注意!妊娠中の尿検査でわかる「妊娠悪阻」とは

妊娠中に脱水や栄養障害を起こす妊娠悪阻という状態になると、尿検査でケトン体が陽性に出ます。ケトン体が出るということは、身体がエネルギーをつくりだせずに助けを求めているサインであり、適切な治療が必要となります。ケトン体とは何か、妊娠悪阻の症状や治療について、詳しく解説していきます。

ケトン体とは?

通常、私たちの体はエネルギー源として糖を利用しています。つわりがひどくなり食事のできない状態が続くと、体内の糖は消費し尽くされてしまいます。そうなると私たちの体は次の手段として、脂肪を分解してエネルギー源である糖を作り出そうとします。脂肪の分解過程でできる代謝産物が有害物質のケトン体です。尿中ケトン体が陽性になるということは、体内でエネルギー源である糖が足りない栄養障害、つまり体が飢餓状態に陥っていることを意味します。

ケトン体の有無でわかる「妊娠悪阻(にんしんおそ)」

・妊娠悪阻とは

つわりの症状が持続的にみられ、ひどく悪化した状態を妊娠悪阻といいます。つわりでみられる吐き気や嘔吐、全身の倦怠感、頭痛、食欲不振、食事の好みの変化などのつわりの症状が著しくみられるようになり、ほぼ毎日のように嘔吐を繰り返し、食事が摂れずに脱水や栄養不良などが起こります。

・妊娠悪阻と診断される基準

ほぼ毎日嘔吐するなどのつわりの悪化に加えて、尿中ケトン体が陽性、持続的に体重が減少する場合、ことに5%以上の体重が減少した場合に妊娠悪阻と診断されます。

・ケトン体の検査方法と検査結果の見方

試験紙を用いた尿検査で診断します。検査結果としては(+)から(+++)までのケトン体があり、どのくらいつわりがひどいのか試験紙の色の変化からわかります。この時に注意しなければならないのは、試験紙が他の薬剤に反応し、本当は陰性なのに陽性の結果になってしまう場合(偽陽性)があることです。もしも何か薬を服用している場合は、忘れずに医師に報告するようにしましょう。

妊娠悪阻の症状

・妊娠悪阻の症状

脱水と飢餓状態が主な症状です。

脱水:ほぼ毎日頻回(5回以上)の嘔吐により脱水が生じます。脱水により喉の渇き、めまい、頭痛、便秘、尿量減少といった症状が現れます。また、水分が不足するために血液が濃くなって血流が滞りやすくなり、血栓を生じるリスクが高まります。重症になると臓器に運ばれる血流も停滞するため、肝臓や腎臓の機能障害が起こります。

飢餓状態:食事が摂れないことによって体重が減少します。身体のエネルギーとなる糖が不足し、脂肪やタンパク質を分解して糖をつくりだそうとするために、酸性物質であるケトン体が産生されて血液が酸性に傾き(代謝性アシドーシス)、嘔吐が更にみられ、重症になると意識障害に陥ります。身体の蛋白が不足するため浮腫みが生じ、重症になると腹水や胸水の貯留がみられるようになります。更に栄養状態が悪化すると、ビタミンB1が欠乏することでウエルニッケ脳症を発症することもあり、意識障害、運動失調、眼球運動障害などの症状がみられることもあります。最悪の場合死亡するケースもあります。逆行性健忘、記銘力低下、作話などがみられるコルサコフ症候群の後遺症が半数以上の確率で起こる、大変危険な状態になります。

・妊娠悪阻とつわりの違い

妊娠悪阻とつわりとの明確な線引きはありません。ほぼ毎日嘔吐するなど、つわりの症状が重くなり、尿中ケトン体陽性、持続的な体重減少などの症状がみられ、治療の介入が必要になった場合に妊娠悪阻と呼ばれます。

妊娠悪阻の胎児への影響

・妊娠悪阻の胎児への影響について

点滴などの治療で、症状が改善する場合は胎児への影響はないとされていますが、母体が命の危険まで晒されると、胎児の発育が遅れる子宮内発育不全が生じる場合もあります。

妊娠悪阻と診断されたときの治療

・妊娠悪阻と診断されたら・・・

軽症ではまずは外来で食事指導、輸液・薬剤療法を行いますが、なかには夫や家族との関係などの精神的ストレスで悪阻が増幅、誇張される人もいるので、そういう場合は現状の環境から離れて安静に過ごすことで症状が改善する場合もあります。

妊娠悪阻の程度によって「食事療法」「輸液療法」「薬剤投与」、最重症の場合には「人工妊娠中絶」がある

・食事療法とは

つわりの症状のために、食事の好みが変わり、食べられるものが限定されることもあります。自分の食べられるもので消化に良いものを、何回にも分けて少量ずつ摂るようにします。スープやジュースなどの水分でも嘔吐や吐き気が強く口から摂取することが難しい場合には、絶食として胃を休め、輸液療法を行います。

・輸液療法とは

妊娠悪阻によって食事がとれない場合は、「輸液療法」と呼ばれるブドウ糖輸液の点滴を行ないます。ブドウ糖を補給することによってエネルギー代謝の仕組みが正常になり、症状が改善されるのです。点滴1回あたりは2時間ほどで、症状に合わせて複数回点滴を行なう場合もあります。また、4kg以上の体重の減少など、脱水症状があまりにもひどい場合は入院することも考えられます。

・薬剤投与とは

妊娠悪阻がみられやすい妊娠5~16週ごろは、胎児の身体のさまざまな臓器がつくられる時期です。そのため、母親が薬を服用することによって胎児への影響が懸念されるため、できるだけ薬は用いずに治療を行います。

しかし、輸液療法を行っても吐き気や嘔吐の症状が強い場合には、吐き気止めや鎮静剤を用いることもあります。比較的、副作用が少ないとされる漢方薬が用いられることもあります。ウエルニッケ脳症予防のために、ビタミンB1や吐き気や嘔吐の改善に有効とされるビタミンB6の投与も行われます。

・人口妊娠中絶とは

妊娠悪阻の程度が最重症で治療を行っても改善せず、黄疸、意識障害など重篤な合併症を伴うなど、母体の全身状態が悪化した場合に母体の保護を目的に選択されることがあります。

<まとめ>

妊娠悪阻はつわりの症状が重くなり、嘔吐による脱水、食事が摂れないことによる飢餓状態へと身体が陥り、身体の中で代謝の異常や循環不全が起こります。 体重が著しく減少し、肝臓や腎臓の機能も悪くなります。また、身体が脂肪や蛋白を分解してエネルギーをつくりだすため、体内にケトン体が蓄積します。 進行すると蛋白が不足することで腹水や胸水などの症状もみられるようになり、起き上がることもできずに最終的には寝たきりの状態となります。

つわりがみられる頃は、胎児の臓器が形成される時期でもあり、積極的な薬物治療は行えません。重症化すると、さらに治療手段が限られます。 妊娠悪阻では、全身状態が悪化する前にできるだけ早期の適切な介入が求められます。「水分を摂取しても吐く」「頭痛やめまいで起き上がることができずに日常生活もままならない」場合には、つわりだからといって我慢せずに、かかりつけの産婦人科を受診しましょう。

妊娠悪阻は環境の影響も受けやすいため、身体をゆっくりと休めること、環境からのストレスや妊娠に対する不安などをとり除き、精神的な安定を得ることも必要です。、家族や周囲の理解と協力も不可欠です。

食欲がない時は、消化に良い食べられるもの(スープなど)を少しずつ頻回に摂るなど、食べるものや食べ方にも工夫をして、脱水、飢餓状態となることを防ぎましょう。


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